こうした「見せ物」を用意して、ラスベガスへの観光客を歓待しているのは、3つのホテルだけではありません。


旧ダウンタウンに向かってさらにストリップを進んでいくと、やはりこれも近年建設されたホテル「ミラージュ」と「トレジャー・アイランド」に到達します。


「ミラージュ」の前庭では、庭園に配したミニ火山が爆発を繰り返し、「トレジャー・アイランド」のストリップに面した濠では、連日、数回、現物大の海賊船が海戦を繰り広げ・・・


うち一隻が毎度海中に船長ごと水没するアトラクションを繰り返しています。


ショーの開催時間には、ストリップの路上にどこから集まってきたのかと思えるほどの黒山のひとだかりが出来て、マストから水上へ船員役の男がまっ逆さまに転落するアトラクションにこぞって歓声をあげます。


このように次から次へと繰り出されるイベントの過半は無料で、それらは明らかに都市の盛り上げに貢献しています。



夏祭りの夜店その変化を受けて、ラスベガスに近年、やって来る観光客は、ひと昔前のカジノ一辺倒ではなく、これらのホテルを渡り歩き、それぞれの場でアトラクションを楽しむようになりました。


「MGMグランド」では、まずライオンの体内の大アトリウムで「オズの魔法使い」のロボットショーを眺めて、豪華ホテルのラウンジにならぶ「マクドナルド」などのファストフードカウンターに列をつくり(なんと不釣り合いな!)・・・


建物の背後にしつらえられた屋外テーマパークでホラーアトラクションなどに興じます。


「エクスキャリバー」の売り物は、アーサー王伝説にもとつく本物の馬が登場するディナーショー。


そして、「ルクソー」のピラミッドの屋内では、実写を巧みにとりいれたディズニーランドの「スペース・ツアーズ」ばりのシミュレーション・ビークルが嬌声を響かせ、セガの協力で開設されたヴァーチャルなゲームセンターで時間を忘れます。


ホテル内テーマパークを売り物にするルクソーは、アトリウムに水路が流れていてそこを船で周回するナイル下りまです。


真正面に、10階建て相当というから高さ40メートルのスフィンクスが守護神のように座っています。


思えば馬鹿げた風景です。


マッキャラン国際空港から車で十分そこそこ。


ラスベガスが約半世紀にわたって、カジノを中心に築き上げてきた昔ながらの「楽園」としての都市のど真ん中を貫通するストリップに、突如、この風景は出現したのです。


突如、本当にそうなのです。


これら3つのホテルのなかで、最初に出現した「エクスキャリバー」の建設年は1990年・・・


それからわずか3年そこそこの間に、まず、「ルクソー」が、次いで93年末に「MGMグランド」が登場しました。


まさに90年代に入って急速にラスベガスの都市景観が変化しつつあるのです。


極度の暑さは、「中世の城」を子細に眺める余裕も与えません。


わたしは、ただただ日陰を求めて、隣接のエジプトの象徴へと足を速めるのでした。


「スフィンクス」と「ガラスのピラミッド」。


こちらはやはり93年に開場したホテル「ルクソー」の建築です。


「ルクソー」は、その名の通り、ホテル全体のイメージをエジプト趣味で統一しています。


その何よりのシンボルは、2500室を超える客室(世界ランク11位)とアトリウムを内部に抱え込んだガラスのピラミッドです。


階数にすると30階建て。


巨大な漆黒の水晶体が砂漠の真ん中に鎮座して、輝く光景は異様というしかありません。



「黄金のライオン」。


1993年末にオープンした世界最大の5千5室の客室数を誇るホテル「MGMグランド」のストリップ側の入り口は、あのメトロ・ゴールドウイン・メイヤー配給の映画の冒頭で庖曜するライオンにちなんだレプリカになっています。


高さは約30メートル。


利用客はライオンの口から館内に出入りすることになります。


わたしはそこから灼熱地獄へと飛び出したのです。


ストリップを渡ると、「中世の城」が待ち受けています。


ホテル「エクスキャリバー(アーサー王の魔法の剣)」。


両側に四角い箱形の陳腐な客室棟を従えて、中央にこれも30階分はある中世のお城のレプリカがそびえ立っています。


このホテルの客室数は4032室です。


これは世界第3位にランクされるといいます(2位はタイのホテル)。


江戸の町の特徴は、ヨーロッパの都市のようなフォーマルな広場に欠けていたことです。


幕府が市民の力を封じ込めるために、広場をつくることを嫌ったからです。


そのため市民は、広場でなく、チマタという形でいろいろな群がり、集まるゾーンをつくり出しました。


むかしの繁華街、盛り場がどことなく隠微の影を宿しているのは、そこが必ずしも「岡場所」的な、栗本慎一郎氏の言葉を借りると臓腑的都市空間としての「闇の都市」であったからです。


それだけでなく、幕府によってフォーマルな広場が禁圧されていたためでもあるわけです。


明治、大正にかけて、東京にも宮城前広場をはじめ、公園その他公設の広場が外国の都市にならって数多くつくられ、「広場」の数が多いことでは東京は全国の都市でも最右翼に位置するようになりました。


しかし、多年の江戸時代の慣習のため、今日でも都民の公設の広場の利用率は低く、横丁的チマタの方が、都民にとってはるかに群がりやすく集まりやすい場所になっています。



東京という都市は、ミヤコの意識はないですが、チマタの意識はきわめて旺盛ということになります。


そして、このチマタの意識は、ミヤコの意識が不活性化すればするほど、東京という街の表面におふれて、フォーマルな顔に変わる新しい今日の東京の顔になります。


山の手のど真ん中に六本木族が現われ、明治神宮のそばに原宿族のゾーンができ、東京の副都心として再開発された西新宿がたちまちアンアン、ノンノン族のチマタと化したところにそのことが表れています。


この意味で、このようにして新しくつくり出された繁華街は、同じ繁華街でもそれ以前の繁華街とは一味ちがう繁華街なのです。


かつては、フォーマルとしてのミヤコの片隅に追いやられ囲まれていた繁華街が、いまではフォーマルの空間の中にどんどん侵食しつつあるのです。


この意味で、東京はいまやかつてのミヤコかた新しいチマタへと大きなチマタ革命の洗礼を受けつつあるといえます。


さて、チマタとは何でしょうか。


それは、人々の群がりが集まる場所です。


その場は必ずしもヨーロッパの都市のようなど真ん中の広場だけとは限りません。


横丁でも街角でもゾーンとして群がりやすいところ、集まりやすいところならどこでもチマタになります。



二つの顔はときにより左右に妖しく揺れ動く顔です。


それと同時に、都市の顔自体が、変化していくものなのです。


とりわけ、アクロポリスとしてのフォーマルな顔の変化が烈しいでしょう。


なぜなら、フォーマルな都市としての東京は、住む人にとって、「見えない都市」だからです。


住む人にとってその街が見えないということは、東京という都市自体が非在に近いということであって、そういう空疎で実体性に欠ける都市には、たとえばギリシアの都市におけるような・・・


あるいは江戸・明治期の東京人が持っていたような、現実的な市民意識や首都としての自覚が誇りが生まれようがないのです。


その意味で、東京のフォーマルな顔が現実の身体性と精神性を欠いた抽象化しつつある顔であり、同時に東京の無限膨張によってますますその内面を腐食されつつある顔なのです。


これに対して、インフォーマルな顔、ゾーンとしての顔は生き生きとした実体性に富む顔です。


なぜなら、ゾーン空間はそこに住む人々にとっては、身体的に触知可能の空間であり、ビジネス的にも生活的にも確かな空間だからです。


もちろんそこには、ポリスにおける市民意識のような明確な意識や誇りはありません。


しかし、それに代わるものとして旺盛なビジネス感覚があり、生活感覚があります。



ビジネスのネットワークという点では、計画空間のシェアは表向きに考えられるよりそれほど大きくなく、「非計画空間」の方が実質的には大きいです。


これに対して生活のネットワーク面では、フォーマルの「計画空間」のシェアが「下町的非計画空間」のそれよりも大きいのです。


ビジネスの世界ではインフォーマルな顔が大きく、生活の世界ではフォーマルな顔が大きい・・・。


それに加えて、行政の世界でのフォーマルな顔があります。


そこに東京の顔のややこしさがあって、どちらかというと全体としてはフォーマルな顔が勝っています。


東京が大阪の街に比べて上品ぶっていて冷たく硬質で面白くない街といわれる所以ですが・・・


このことをもって、東京とはこういう街と決めてかかるのは早計というものです。



預言者モーセがシナイ山から降りてきたとき、彼はこの世の倫理を十指で数えることができました。


エアコンをつけるという簡単な行動が大気に温室効果ガスを放出してしまうような、複雑な21世紀後半の世界経済の中で生きる私たちにとっては、生態学的に持続可能な生活を送るためのルールは数えきれません。


しかしながら、持続可能な社会の基本原則は、黄金律〔自分がしてもらいたいことを他人にもしてあげなさいという教え〕を生態学的に移し替えた、ごく簡単なものです。


・・・すなわち、未来の世代が彼らのニーズを満たす可能性を損なうことなく、自分たちの今の2ーズを満たしなさい、ということです。


欠けているのは、社会のさまざまなレベルで、この原則に沿った方法で生活するにはどうすればよいかという、綿密で現実的な知識です。


倫理とは、結局、行動の中にのみ存在し、毎日の小さな決定の連続の中にのみ存在します。


アリストテレスが述べたように、「倫理においては、決断は認識にかかっているのである」。

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